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RESEARCH

​ 強相関電子論研究室では、超伝導や交差相関物性、近藤効果から統計物理学の問題までの幅広い対象に対して日々教育・研究を行っています。面白そうなことは何でも手を出して考えてみる、という精神で研究をしています。特に専門分野の近い同じ学科内の、電子物性研究室、超伝導物質研究室などと協力しながら、新しい物質の未解明な性質などの解明を目指します。

​ 以下に紹介するのは、研究室で行なっている最先端の研究というわけではなく、分野紹介のようなものです。興味を持つきっかけになれば大変光栄です。一部重なりがありますが、研究室紹介のスライドpdfはこちらです。

​Superconductivity

 超伝導(superconductivity)は、20世紀初めに水銀の電気抵抗が低温で消失することが発見されて以来、長きにわたり物理学者を魅了しています。現在では工業的にも応用がなされており、有名なところでは医療機器の​MRIやリニア中央新幹線に用いられたりしています。この現象に対する理論は1957年のBCS理論により完成し、今日ではBCS理論を基礎として、さらに新しいタイプの超伝導や、超伝導の持つトポロジカルな性質などが注目を集めています。

 超伝導状態は、二つの反対向きの運動量を持つ電子対(クーパー対)がゆるい束縛状態を作り、その対がボーズ凝縮する(フェルミオン2つでボゾンになる)ということで理解されています。クーパー対の性質は、その相対角運動量LとスピンSなどによってさまざまあり、特にL=S=0を「従来型」と呼び、これはBCS理論発表時に想定されたもので、それ以外を「非従来型」とよんでいます。後者が実験的に見つかると、業界の研究者はフィーバーするわけです。例えば、銅酸化物高温超伝導体は後者に分類されます。最近の研究においては、クーパー対の軌道自由度や非共型空間群などを考えると、今までよくわからなかった超伝導について説明が可能であるということがわかってきました。発見から100年以上が経っていますが、

​まだまだ新しい発見が続いている物性研究の一大分野の一つです。

Cooper.png

図:異なる種類のクーパー対の例。円は電子のフェルミ面、緑と赤の球体はクーパー対の相対角運動量を表す。左から(L,S)=(0,0), (1,1), (2,0)のクーパー対。後者2つは「非従来型」に分類される。​

Renormalization group

 くりこみ群(renormalization group)というと何だか難しそうですが、要約すると、観測するスケールを変えた時に系のハミルトニアンとかラグランジアン(〜物理法則)がどのように変化するかを追跡する理論です(ちょっと言い過ぎかも)。この考えの根底には、自然法則はそれぞれのスケールで究極的には「局所的」であるべきという希望(?)があります。例えば、水素原子内の電子の記述にクォークのラグランジアンは不要なことを思えば、この要請は受け入れられると思います。物事を「遠く=低エネルギー」から眺めると、そのスケールでの〜法則が見つかるかもしれない、ということです。

​ 物性物理において、くりこみ群は低エネルギーでどのような相互作用が支配的になるか?とか、統計物理学における相転移の臨界現象の記述に力を発揮してきました。後者はぱっと見、前段落の説明と関係ないように思えますが、相転移近傍では、系の持つ特徴的長さのスケール(相関長)が発散するという現象があります。1970年代以降、これに関連してくりこみ群は大成功をおさめています。

RGflow.png

​図:ハミルトニアンの変数(u,t)の流れ。赤と緑の点はくりこみ群で変化しない点で「固定点」と呼ばれる。緑は流れが出ている固定点であり不安定固定点、赤は流れ込んでくる方向もあり、臨界現象と関係する臨界固定点という。​

Kondo effects

 近藤効果(Kondo effects)は磁性不純物を含む金属の電気抵抗が低温で増大する現象です。純良な金属の電気抵抗は温度Tの降下とともに減少し、絶対零度でのある一定値に漸近していきます。磁性不純物がなぜ電気抵抗の増大に寄与するかは1960年代まで理解されていませんでしたが、Kondoによる理論でこの電気抵抗の増大の謎が解き明かされました。その後、日本の多くの研究者もこの分野で主要な貢献を果たしました。

 磁性不純物(=スピン)は近藤温度とよばれる温度TKの高温側では自由なスピンとして振る舞いますが、それ以下においては金属中の伝導電子とスピン一重項を形成し、絶対零度では実質的に磁性不純物が消失したように振る舞います。この過程で伝導電子は不純物スピンに強く散乱され、電気抵抗が増大していたのです。

​ 実は、この近藤効果の物理が発展する過程で、現代の多体系の理論の基礎の多くが築かれたと言っても過言ではありません。1980年代から発展した重い電子系と呼ばれる有効質量が真空中の電子の質量の1000倍にもなっている系では、近藤効果は主要な役割を果たしており、それらの系で見られる非従来型超伝導などが現在でも盛んに研究されています。

KondoEffect.png

​図:近藤効果の概念図。上図は近藤温度TKより高温の状態で伝導電子(緑矢印)と不純物スピン(黒矢印)は独立に振る舞う。下図は低温状態で、不純物スピンは伝導電子スピンにより遮蔽される。

Frustrated magnets

 フラストレーションと聞くと、あまり良い意味ではありませんが、物理学においてもこのような専門用語があります。通常、「磁性体」というのは磁石(強磁性)になったり、隣の磁気モーメントが互いに反対向きにそろう反強磁性体になるような物質を言います。ある種の結晶構造では、高温で通常の反強磁性体と似た振る舞いを示すにもかかわらず、温度を絶対零度近傍まで下げてもうんともすんとも言わない(つまり反強磁性体にならない)ことがあります。これらはフラストレート磁性体(frustrated magnets)とよばれています。

 この「ある種の結晶構造」とは、このHPの背景模様にあるような三角形を要素とした構造です。例えばこのページでは「かごめ構造」と呼ばれており、現時点で最もフラストレーションが強いと言われている構造の一つです。大雑把に言ってしまうと、三角形の頂点に↑と↓をおいて全てのボンドを反強磁性的にすることができないこと(→フラストレーション)に関係しています。これらの系の基底状態の波動関数がどういうものかは、現在でも議論が続けられていますが、有力なものとして、スピン液体という状態があり、物質の新しい状態として注目​を集めています。ここでの「液体」とは実際に液体になっているわけではないですが、反強磁性体のようにスピンが「がっちり」固まっていない非磁性状態を意味しています。

frustration.png

​図:フラストレーションの概念図。上図は三角形上のフラストレーション。下図はスピン液体の一つであるRVB状態(Resonance Valence Bond)。楕円はスピン一重項を表し、これらの重ね合わせで波動関数が表現される。

Orbital degrees of freedom

 電子の軌道自由度(orbital degrees of freedom)とは、量子力学でも習ったように、水素原子のような球対称ポテンシャル問題の角度部分の波動関数に対応しています。実際の物質では、この軌道自由度が物性を大きく左右することがあります。例えば、軌道がz方向に伸びているd波の波動関数(右図の上から3段目左端)の電子はz方向の隣の原子には飛び移りやすいですが、x、y方向にはあまり動けない、といった状況が生じます。このような場合には様々な量に異方性が生じ、顕著な時には有効的な次元の低下と考えた方が良いこともあります。

 現実には、電子は軌道自由度の他に電荷とスピンの自由度も持っています。これらが複雑に絡み合い、電荷・スピン・軌道結合系が実現している系では、多彩な相転移や興味深い応答を示します。さらに5d電子系やf電子系においてはスピン軌道結合が強いため、スピンと軌道が混ざった「多極子」として振る舞い、その新奇な物性研究も近年活発になってきており、今後も未知の性質を発見できるかもしれません。

orbital.png

​図:s, p, d, f 波の波動関数。色の違いは符号を表す。

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